【電波新聞社 2008年3月13日付 ハイテクノロジー 掲載】
近年ではユビキタス社会の象徴といえる携帯電話やデジタルオーディオプレーヤー、携帯情報端末などの携帯機器の需要が拡大している。
そしてそれらの機器の小型化,薄型化、軽量化が確実に進んでいる。また、並行して近距離無線機能(ブルートゥース、無線LAN、RFID)やワンセグチューナー等の機能が搭載され、高機能化という面での進化も著しい。
これらの機器のデジタル処理に不可欠な電子部品の一つである水晶振動子にも更なる小型化、薄型化と高性能化が求められている。
日本電波工業ではこのような市場ニーズに対応する商品開発を積極的に進め、高信頼性(環境特性、耐熱特性、耐衝撃特性など)を併せ持つ業界最小、最薄の水晶振動子、NX1612AAの商品化に成功した。
ここでは超小型、薄型NX1612AAの開発について説明する。
製品概要と特徴
NX1612AAの外形寸法は1.6×1.2×0.3mm(高さ0.35mmMAX)。容積は0.00058ccであり、従来の小型製品である2016サイズの容積比60%減となっている。
OA・AV・近距離無線用に開発した超小型水晶振動子である。
具体的にはブルートゥースやワイヤレスLAN、TVチューナーモジュール、RFIDカード内蔵などの用途に最適である。
当社独自の生産工法による真空気密封止をすることによって高生産性、高信頼性を確保している。
その他、鉛フリー半田用のリフロープロファイルに対応可能である。また、環境に配慮したRoHS対応製品となっており、鉛は含まれていない。
周波数は26MHz~80MHz、周波数偏差±10~±20ppm、温度特性±10~±20ppm(-30~+75℃)が対応可能となっている。励振レベルは標準を10μWとし、最大は200μWとしている。
これらは標準的な仕様で、負荷容量や温度特性などカスタム仕様への対応も可能である。
◆水晶振動子NX1612AA外観写真

◆標準仕様

◆水晶振動子NX1612AA外観寸法図

◆NX1612AA 電気的特性例(温度特性)
| 26MHz | 38.4MHz | |
| F | F | |
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|
| CI | CI | |
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小型・薄型化にする設計技術
従来、水晶振動子のパッケージにはアルミナセラミクスを使用している。
水晶振動子の小型化、薄型化を進めるには、パッケージ内部に搭載される水晶チップに必要な空間を確保りしながら、外形寸法を小さくしなければならないため、パッケージ材の薄肉化が要求される。
しかし、薄肉化はパッケージ強度低下を招き、装置搭載等の取り扱い時の外力により破損し易くなる。
破損による気密破壊は水晶振動子の機能を失うという致命的な問題となるために避けなければならない。
このような相反する要求を両者ともバランスよく満足させるには、パッケージと水晶チップの並行した開発が不可欠であった。
(1)パッケージ設計
パッケージの薄肉化の検討をするため、まず、気密封止方法の検討と材料の選定を行った。
SMD振動子の気密封止方法には従来より抵抗加熱によるシーム溶接方式、ガラスや金属ロー材の封止材を熱により溶融する方式がある。
それぞれの材料の種類や寸法によってパッケージにかかる応力は異なる。
一般的には要求されるパッケージサイズや信頼性仕様にあわせて選択する。
しかし、今回のような小型1612サイズになると封止方法の検討や従来の材料の選定では、満足するものが得られず、新しいパッケージ材料の開発が必要となった。
そこで、パッケージメーカーと連携し従来より強度のあるパッケージ材料を開発することにより、十分な強度を持ったパッケージを採用する事が出来た。
同時にあらゆる構造、寸法、および熱や機械的応力のパラメータを振ってシミュレーション解析を行うとともに実験的検証も行ってきた。
これらの基礎的なデータ取得によって材料や構造の限界値を把握することができ、安全性の高い製品の設計に到達する事が出来た。
◆パッケージの応力シミュレーションの一例

パッケージにかかる最大応力の発生場所とその値、および応力方向がわかる
(2)水晶チップの設計
水晶チップの設計についてはチップや励振電極の寸法、水晶チップの保持や導通方法など、多くの設計パラメータがあり、小型化の過程でいろいろな課題が発生した。
水晶チップに必要な主な特性としては周波数偏差や等価直列抵抗(以下、CI)があるが、小型化しても従来品と同等に近い特性を満足しなければならない。
水晶チップが小型になるほどCIが大きくなる傾向にあり、設計での工夫が必要になってくる。
さらに、温度特性における急激な周波数変動の抑制も設計上の重要なポイントとなっている。
これらのさまざまな設計パラメータを考慮して 最適な設計を行うため、当社は有限要素法による振動シミュレーションと実験計画法による検証を効果的に組み合わせて、使用している。
有限要素法では、水晶チップのベベル形状、寸法、および励振電極の位置、寸法の違いによる水晶振動子の等価定数の変化や共振周波数近傍に発生するスプリアスの周波数を計算している。
それらのデータから温度特性への影響をシミュレーションし、水晶チップの最適設計に活用している。
◆水晶チップの振動シミュレーションの一例
| 結合のないときの厚みすべりモード | スプリアスと結合したときの振動モード |
![]() | ![]() |
上述の設計上の課題のほかに、小型化の実現のためにはチップの加工においても解決すべき課題が生じる。
低い周波数では水晶チップのベベリング加工をするのが一般的であるが、小型になるほど加工精度の向上など加工条件の難易度が高くなってくる。
この課題についても、当社独自の工法開発により設計値通りのチップを効率よく製造する事が可能となっている。
むすび
近年の小型化・高性能化の市場ニーズに対応するための振動子設計の課題は多く、技術的なハードルも高くなっている。これらを解決するためには、水晶ウエハー設計のエンジニアだけの活動ではなく、各分野のエンジニアと、時にはメーカーやユーザーとの連携が不可欠である。
開発手法も統計的手法やシミュレーションなど新しい手法を活用することにより、高精度化・高効率化していく必要がある。
当社では、以上述べたように開発のすべての段階で各種の技術を取り込むことにより、効率よく新製品の開発を進めている。
<山田博章:日本電波工業(株)技術統括本部>





