26×26×13.67ミリサイズ、優れた周波数エージング特性
【電波新聞社 2007年11月22日付 ハイテクノロジー 掲載】
水晶発振器は、極めて安定な周波数を供給する周波数発生源として、放送機器、計測機器、デジタル機器のクロック信号源などに広く利用されている。特に恒温槽付き水晶発振器(Oven Controlled Crystal Oscillator:OCXO)は、恒温槽により水晶振動子の周囲温度を一定に保っているために、他の水晶発振器と比較して温度特性が非常に優れている。そのため、高度の周波数安定度を必要とする通信基地局の基準周波数や周波数カウンタ、周波数シンセサイザの周波数基準などに用いられている。
近年、情報化社会の進展による情報伝送の高速・大容量化に伴って、計測器や通信基地局などで使用される基準用発振器の高周波化および低位相雑音化が要求されている。
日本電波工業では、基準用発振器の高周波化・低位相雑音化のニーズに応えるため、低位相雑音特性を有する100MHz OCXO(OCXO-9325D)の開発を行い商品化した。
このOCXOは、従来の10MHz OCXOの10倍となる100MHzの高周波化が達成できただけでなく、従来の10MHz OCXOよりもさらなる低位相雑音化を実現している。理論的には高周波になるほど位相雑音特性が悪化するが、当社では、共振器としてSCカット水晶振動子を使用し、発振回路に独自の技術を凝らすことにより、100MHz OCXOの低位相雑音化を可能にした。
ここでは、このような高周波特性および低位相雑音特性を有する当社の100MHz OCXOについて紹介する。
《100MHz OCXOの設計》
一般的には高性能化・高機能化を求めると外観寸法が大きくなってしまうが、当社の100MHz OCXOは、従来の10MHz OCXOと同サイズの26×26×13.67mmの小型化を実現している。写真は、100MHz OCXOの外観である。端子配置は、従来のOCXOと同様の5端子で構成されており、気密性に優れた抵抗溶接用のパッケージを使用している。

100MHz OCXOの外観
今回紹介する100MHz OCXOは、従来使われているATカット水晶振動子に比べて周波数安定度が優れているSCカット水晶振動子を使用している。SCカット水晶振動子は、ATカット水晶振動子よりも駆動電流変動に対する周波数変化の傾きが小さいために、発振回路の微小電流の揺らきから生じる位相雑音特性に優れている。また、ATカット水晶片よりもSCカット水晶片の方が厚いこと、さらに5倍波オーバトーンモードを使用しているために、100MHzの高周波化においても周波数エージング特性が優れている。
このSCカット水晶振動子は、Cモードと呼ばれる主振動の10%程度高い領域にBモードと呼ばれる副振動モードが存在する。このBモードは、Cモードの安定な発振を阻害する要因となる。発振回路には、このBモードを抑圧するためのフィルターが施してあり、これにより、安定したCモードの発振が可能となる。SCカット水晶振動子を使用するもう一つの利点としては、ATカット水晶振動子よりも高レベル水晶電流で駆動できる点が挙げられる。この高レベルの駆動電流により、C/Nを小さくして低位相雑音化を実現することができる。
図1は、100MHz OCXOの構成図である。通常のOCXOと同様に主に次の4つの部分から構成されている。OCXOの内部温度を一定に保つための温度制御部および、電源からの雑音や電源回路自身から発生する雑音を最小限に抑えることが可能な低雑音定電圧電源回路、高安定なSCカット水晶振動子を高駆動電流で動作することで低位相雑音化を実現する発振回路部とバッファアンプ部で構成されている。

図1:100MHz OCXOの構成図
従来のOCXOでは、発振回路構成として高周波回路でよく用いられるコルピッツ型回路が多く使用されてきた。しかし、このSCカット100MHz OCXOでは、位相雑音(特にフロアノイズ)の低減化のために水晶振動子に多くの駆動電流を流すことのできるべ一ス接地型の発振回路を採用している。このべース接地発振回路は、駆動電流を多く流すことが可能であるSCカット水晶振動子の特徴を存分に発揮できる回路である。
また、出力部のバッファアンプでは、高調波の抑圧のために100MHz同調用のLCフィルターを配置している。このため、当社のSCカット100MHz OCXOは、高調波抑圧特性として-60dBm以下を実現しており、この良好な高調波特性が低位相雑音化にも優位に機能している。
《位相雑音特性》
図2は、当社のSCカット100MHz OCXOの位相雑音特性を示している。従来のOCXOと比較して非常に良い位相雑音特性が得られた。特にオフセット周波数10kHzのフロアノイズ領域では-160dBc/Hz以下の低位相雑音化を実現できた。これは、当社の10MHz OCXOの仕様-150dBc/Hz以下と比較して10dBの改善が達成できている。この100MHz OCXOは、フロアノイズ-160dBc/Hz以下の低位相雑音特性を大きな特徴とすべく開発を進めてきた。また、オフセット周波数100Hzおよび1kHzの1/fノイズ領域においては、周波数が10倍になると位相雑音特性は20dB劣化することを考慮すると、従来の10MHz OCXOよりも20dB程優れている。

図2:100MHz OCXOの位相雑音特性
この100MHz OCXOを使用する大きな利点として、例えばマイクロ波シンセサイザの基準用発振器として用いた場合について少し述べる。
シンセサイザは、発振周波数を制御するVCO(電圧制御発振器)と基準用発振器を位相比較することにより、出力信号の周波数と位相が安定化される。このときVCOの高周波信号を分周することにより基準発振器と位相比較されるが、分周比が小さいほど出力信号の位相雑音特性は良くなることが知られている。
基準用発振器として、従来の10MHz OCXOの代わりに100MHz OCXOを使用すると分周比が10分の1になり、この効果でシンセサイザの出力信号の位相雑音特性は20dB程度改善される。つまり、基準用OCXOの低位相雑音化とともに、高周波化の実現もマイクロ波シンセサイザの低位相雑音化に機能することになる。
《温度特性》
図3は、温度特性を示している。OCXOの一般的仕様範囲である-20℃~+70℃の温度領域で±20ppb以内に抑えられていることがわかる。当社が量産中のSCカット水晶振動子は、広い温度範囲で周波数ジャンプなどがない優れた温度特性をもっていることが特徴である。また、一般的なOCXOでは、使用している水晶振動子の温度依存性が最も少ない頂点温度に個々のOCXOの内部温度を調整する。

図3:100MHz OCXOの温度特性
当社のSCカット水晶振動子は、この頂点温度のバラツキが少ないため、OCXO組立時に通常行われる頂点温度調整なしにこの温度特性を実現することができる。
《今後の展開》
今回、高周波かつ低位相雑音特性を有するSCカット100MHz OCXOについての紹介を行った。当社のSCカット100MHz OCXOの最大の特徴は、フロアノイズ領域の位相雑音特性が-160dBc/Hz以下を満たしていることである。
現在、さらに低位相雑音化を目指したフロアノイズレベル-170dBc/Hz以下を満たす100MHz OCXOを開発中である。これを実現すると、同サイズの100MHz OCXOでは世界最高クラスの低位相雑音特性となる。
一般的に低位相雑音化を要求すると、温度特性や周波数エージング特性が劣化してしまう傾向にある。これらのトレードオフの関係を考慮して開発を進めていく必要がある。
<小野公三:日本電波工業(株)技術統括本部>