日本電波工業株式会社

MEMS発振器との比較における差動出力水晶発振器の優位性について

[ PDF ]


(1)はじめに
 5G/LTEなどのモバイル高速通信や、SONET(Synchronous Optical Network)/SDH(Synchronous Digital Hierarchy),10Gbit/Ethernet,SATA(Serial Advanced Technology Attachment)およびPCI-Expressといったシリアル通信において、高速化と大容量化における通信性能向上のために、様々なお客様から低位相ジッタの基準クロック用水晶発振器のご要望が増えています。また、画像データ伝送に代表される高速伝送系には、一般に“差動伝送”が用いられていますが、その差動伝送を行う際の基準クロック源の選定にお困りであるとのご相談が増えて参りました。
 基準クロック源の候補としては、水晶発振器やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)発振器等があり、今回、当社の差動出力水晶発振器(2018年6月20日ニュースリリース品)とMEMS発振器(同時期に発売されている最も低位相雑音な商品)との特性比較を行いました。


(2)電気的特性比較結果
 伝送特性に重要である仕様は①位相ジッタ/位相雑音、②消費電流、③立上り/立下り時間があり、それぞれの特性比較結果をご紹介いたします。以下の測定は、出力仕様はLVDS、電源電圧は3.3V、周波数156.25MHzの同一条件下にて行っております。

①位相ジッタ/位相雑音
 大容量の伝送方式に使用される変調方式としてはQPSK(Quarter Phase Shift keying: 位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調方式)がありますが、情報量が大きくなる場合、QAM変調方式が使われます。

 概念図としては、以下のようになります。

概念図


-----


 上記に示されるように高速伝送化に伴い、多値変調化が進むと符号間距離が近くなります。それによって、要求されるCNR(Carrier to Noise Ratio)は変調方式に従って、大きくしなければなりません。

信号帯域幅


 CNRをより改善する手法の1つとして、基準信号源の低位相ジッタ化があります。
 今回、基準信号源に用いられる差動出力水晶発振器とMEMS発振器の位相ジッタ値について比較評価致しました。SONETの通信ループの帯域内である12kHz~20MHz間での位相ジッタ量にて比較を行ったところ、差動出力水晶発振器は57fs、MEMS発振器は250fsで差動出力水晶発振器の方が、値が小さい結果となりました。

 また、位相雑音の測定結果を以下に示します。

位相雑音の測定結果


 位相雑音と位相ジッタの関係は以下のとおりです。
位相雑音と位相ジッタの関係

 位相雑音の積算値(上図ではドット部分)にあたる部分が位相ジッタに相当しますので、12kHz~20MHzの値の位相雑音を低くすることによって、位相ジッタを改善します。

②消費電流
 伝送速度が速くなると装置の消費電力が大きくなりますので、できる限り部品の消費電流を低くすることが求められます。消費電流を比較したところ、差動出力水晶発振器は11 mA、MEMS発振器は71 mAで差動出力水晶発振器の方が、消費電流が低い結果となりました。
 一般的にMEMS発振器は回路構成上PLL(phase locked loop)回路を有する必要がありますが、水晶発振器はPLL回路が不要なため、シンプルな発振回路構成となっており、消費電流を抑制することが可能となっています。

③立上り/立下り時間
 差動出力は電圧振幅を小さくし、信号の立上り/立下り時間を早くしている為、高速伝送しやすくなります。よって、立上り/立下り時間は、できる限り早いことが望ましいです。立上り/立下り時間について測定すると、差動出力水晶発振器は0.30ns/0.30ns、MEMS発振器は0.37ns/0.35nsとなり、水晶発振器の方が、立上り/立下り時間が早い結果となりました。

 上記の特性比較結果を一覧表にまとめましたので以下に示します。特性の優位性を○、△、×の三段階にて評価しました。

出力仕様:LVDS  電源電圧:3.3V  周波数156.25MHz
  差動出力水晶発振器 MEMS発振器
位相ジッタ
(12kHz
~20MHz)
○ 57 fs × 250 fs
位相雑音 位相雑音特性グラフ
消費電流 ○ 11 mA × 71 mA
スタンバイ
消費電流(※注)
○ 41μA × 53 mA
Tr/Tf ○ 0.30 ns /0.30 ns △ 0.37 ns/0.35 ns
発振起動
時間(※注)
○ 0.2 ms × 2.1 ms

差動出力発振器とMEMS発振器の代表的な電気的特性比較表

(※注):5G用途には使用しない項目であるが、水晶発振器の方が電気的特性に優位性がある。

(3)まとめ
 以上のように、差動出力水晶発振器はMEMS発振器と比較した結果、位相雑音/位相ジッタ、消費電流、立上り/立下り時間の特性に優位性があることが明らかになりました。
 5G及びネットワークを始めとする高速伝送が必要な用途には、ノイズ性能の一つである位相雑音/位相ジッタに強みがあり、これまでの採用実績が豊富にある差動出力水晶発振器を使用することで、安定したシステム構築につながります。ゆえに、基準クロック源の選定の際には、差動出力水晶発振器を推奨致します。



Copyright© 1997- NIHON DEMPA KOGYO CO., LTD.