日本電波工業株式会社

宇宙開発用水晶発振器とは

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1.電子機器の宇宙空間での影響について
 人工衛星等、宇宙で電子機器を使用する場合、放射線の影響や激しい温度変化といった非常に厳しい使用環境に耐えなければなりません。もし故障してしまった場合には修理する事が出来ない為、費用的な損失(HⅡ-Aロケットで打ち上げ費用:約100億円、人工衛星製造費用:数百億円)や、人工衛星そのものが宇宙ゴミ(space debris)となるなど、多大な影響があります(図1参照)。その為、宇宙用途部品には高い信頼性が要求されます。

図1.宇宙環境での宇宙機に対する影響イメージ

図1.宇宙環境での宇宙機に対する影響イメージ
(枠内の赤文字は設計で考慮している項目です)


2.宇宙用途部品への要求
宇宙用途部品への一般的な要求を以下に記載致します。
・動作温度範囲:-55℃ ~ +125℃
・ハーメチックパッケージ
・高い耐振動性
・アウトガスと可燃性の制御
・長期信頼性
・耐放射線性
・ロット保証試験
・ロットレベルでのトレーサビリティ


3.宇宙用発振器の信頼性保証の方針
 人工衛星搭載用発振器として、宇宙用途部品への要求も含め、以下の4つのポイントを設計及び品質管理に盛り込むことにより、高信頼性を保証しております。
(1)搭載部品レベルで信頼性を確保
(2)耐環境性能を考慮した発振器構造
(3)徹底した工程管理の実施(工程毎に確認及び検査を実施)
(4)スクリーニング及びLot保証のための品質確認試験を実施
   (宇宙開発用信頼性保証混成集積回路共通仕様書:JAXA-QTS-2020適用)

各項目につき、以下に詳述します。

搭載部品レベルで信頼性を確保
 部品レベルで信頼性の保証されているJAXA認定部品及びMIL認定部品(Space grade)又はMIL認定部品と同等の品質確認試験を実施した部品を採用することで発振器としての信頼を保証しております。
 特に耐放射線性(SEE及びTID)(*1)については、半導体部品として一定レベル以上の耐放射線性を保証された半導体を採用し、水晶振動子としては宇宙用として実績のあるJAXA認定水晶振動子と同じ高品質な水晶原石から切り出した水晶片を使用することで対応しております。発振器としても品質確認試験の中で耐放射線性試験(TID)を実施し、品質保証を致しております。

(*1) 耐放射線性
 a) SEE:シングルイベントエフェクト
       単発の高エネルギー粒子が半導体デバイスに入射し、その電離作用により受ける影響。半導体の故障モードにはSEL(シングルイベントラッチアップ:一過性の故障、ビット反転等)やSEU(シングルイベントアップセット、永久故障)等があります。
 b) TID:トータルドーズ
       多量の低エネルギー粒子が半導体デバイスに入射し、その電離作用により受ける影響。リーク電流や閾値の変化等徐々にデバイスが劣化していきます。

(2)耐環境性能を考慮した発振器構造
 本発振器への要求仕様で特徴的なものとして、広範囲の動作温度があります。低温及び高温が繰り返し発振器にかかった場合に、特に部品実装部(はんだ付け部)への熱ストレスによるはんだの劣化が懸念されます。能動部品は一部でサイズが大きい物を採用しており、熱ストレスの影響を多く受ける事が考えられる為、はんだ付けではなく接着剤固定及びワイヤボンディングによる電気的接続としております。受動部品は、サイズが小さい為、宇宙用として実績のあるはんだを使用して実装おります。
 水晶振動子は、パッケージングされた水晶振動子を採用するダブルシール構造とすることで、水晶振動子単体での耐環境性能を確保するともに発振器としての性能を向上させております。また、パッケージに関しては打ち上げ時の振動・衝撃を分散させる目的で、端子数が多い構造を採用しております。
 上記は宇宙用部品として実績のある構造であり、これらを採用する事により構造面での品質を確保しております。(図2参照)

図2.発振器構造図

図2.発振器構造図


(3)徹底した工程管理の実施(工程毎に確認及び検査を実施)
 ISO9001(品質マネジメントシステム)のように、宇宙開発用共通部品等一般共通仕様書(JAXA-QTS-2000)に準拠した品質保証プログラム計画書を制定し、確実に運用することで工程の品質を管理しております。

(4)スクリーニング及びLot保証のための品質確認試験を実施
 MIL-STD-883に準拠したJAXA規格(JAXA-QTS-2020)を適用しております。

a) スクリーニング
 初期不良をリジェクトする為にスクリーニングとして、表1に示す項目について全数検査を実施しています。

表1 スクリーニング

(*2) 4 桁の数字はMIL-STD-883 の試験方法番号を示す。
(*3) 安定化ベークは工程内検査での実施とし、スクリーニングでは省略する。

b)Lot保証のための品質確認試験
 ロットレベルでの品質を保証する為に品質確認試験として、表2に示す項目について抜取試験を 実施しています。

表2 品質確認試験

(*4) 4 桁の数字はMIL-STD-883 の試験方法番号を示す。

 以上の様に、部品、構造、工程管理、保証試験それぞれでの品質管理により人工衛星搭載用発振器としての高信頼性を保証しております。これにより、宇宙開発用信頼性保証混成集積回路共通仕様書JAXA-QTS-2020に適合し、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の認定を取得致しました。 宇宙用発振器の外観を図3に、また、電気的特性を表3に示します。

図3.宇宙用発振器外観(15.8 x 15.8 x 3.5 mm)

図3.宇宙用発振器外観(15.8 x 15.8 x 3.5 mm)


表3.電気的性能

4. まとめ
 今後は要求に応じて周波数の拡大やパッケージの追加等を検討して参ります。また本設計にて確立した構造や品質管理手法を、他市場の高信頼製品へ展開していきます。



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