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技術情報追加「フォトリソグラフィー技術の水晶ブランク加工への応用」
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1.はじめに
スマートフォンに代表される携帯端末などの電子機器では小型化、高性能・多機能化が進んでおり、使用される電子部品にも小型、高性能が求められています。水晶デバイスも例外ではなく、図1に示すロードマップのように小型化した振動子が製品化されています。この様な小型化された振動子に使用される水晶ブランクの生産は、従来のメカニカルな工法では困難となっています。そのため当社では写真製版技術(以下、フォトリソグラフィー技術)を水晶振動子のブランク生産へ応用し、小型・高精細な水晶ブランクの量産を実現しています。本稿ではフォトリソグラフィー技術を使って生産しているフォトリソ加工ブランク(以下、フォトブランク)について紹介します。
図1. 水晶振動子のロードマップ
2.フォトリソグラフィー技術の水晶ブランク加工への応用
フォトリソグラフィー技術を水晶ブランクの形成へ応用した、当社のプロセスフローについて概略を説明します(図2)。
水晶基板表面にメタルを成膜後、レジストを塗布し、露光・現像で外形形状用のマスクをパターニングします(1. パターン形成)。その後ウェットエッチングにより水晶を溶解し、外形を形成します(2. 素子形成)。共振周波数は素板の厚みと反比例するため、ウェットエッチングにより所望の厚み(周波数)に調整します(3. 周波数合わせ)。こうして形成された水晶ブランクに電極を形成して完成です(4. 電極形成)。
フォトブランクの特長は、従来のメカニカルな工法による生産で懸念される外的衝撃やコンタミネーション(コンタミ)による不良を軽減できる点にあります。また、水晶ブランクの加工を基板単位で扱うことができるため、フォトリソグラフィー技術の最大の特長である、サイズに関わらず同一基板上に一度に多数のフォトブランクを効率的に生産することが可能になります。
図2. 当社フォトブランクのプロセスフロー(概略図)
3.異方性エッチングを利用した当社独自の水晶ブランク形状
一般的にウェットエッチングでは、エッチング速度が全方向同じである等方性エッチングと、エッチングが進みやすい方向と進みにくい方向がある異方性エッチングに大別されます(図3)。水晶のウェットエッチングは異方性エッチングであり、異方性エッチングをコントロールすることがフォトブランク生産で重要となります。当社は、この異方性エッチングを積極的に利用して独自のフォトブランクの生産を行っております。
図3. ウェットエッチングにおける等方性エッチングと異方性エッチングの断面模式図
図4. (a)に水晶のATカット基板で異方性エッチングをコントロールして外形形成したフォトブランクの一例を示します。フォトブランクのZ'軸方向(短辺方向)両端の形状が重要となります。この形状は異方性エッチングの条件によって変わりますが、当社のフォトブランクは図4. (b)に示すような3面形状で設計しており、この形状が変わるとCI (Crystal Impedance)値が大きく変わることが分かっています(図4. (c)) (特許登録済)。
図4. 当社フォトブランクの(a)略図,(b)断面拡大図および(c)CIの形状依存性 [1]
このようにZ'軸方向の端部が3面で形成されたとき、ATカットブランクの振動姿態である厚みねじれ振動が別の振動に変換されてしまうのを抑制することができ、CIが良化されることが解析で分かっています。この3面構成の中でもATカット面に対する角度が最も緩やかな面(図4.(b)の11a面)の長さが振動の変換に大きな影響を与えており、適切な長さにすることで、振動の変換が抑制された良好なフォトブランクを作製することができます(図5)。このようなZ'軸方向端部の3面形状が当社のフォトブランクの特長となります(特許登録済)。
図5. 振動変換率の傾斜部寸法依存性 [2]
4.フォトブランクと機械加工ブランクの比較
最後にフォトブランクと機械加工ブランクを比較します。図6は1.6 x 1.2 x 0.35 mmのパッケージにフォトブランクと機械加工ブランクをそれぞれ搭載してCIの温度特性を評価した結果です。機械加工ブランクでは-30 ℃から85 ℃までの温度範囲内で規格(図6の 赤枠内)を満足できるのが約37 %であるのに対し、フォトブランクでは約98 %もの高い値が実現できております。
このように、フォトリソ加工では高品質なフォトブランクを一つの基板上に一度に数多く生産することができるため、小型化、高周波化する水晶デバイスに今後増々広がっていくものと考えます。
図6. フォトブランクと機械加工ブランクの比較
5.まとめ
当社では小型化される水晶デバイスに対応できるよう、フォトリソグラフィー技術と水晶エッチングを利用した水晶ブランクの生産を行っています。今回はその一例として、Z'軸方向の端部が3面で形成された、当社独自のフォトブランクの形状を紹介しました。今後も本技術を駆使して小型化、高性能・高品質なフォトブランクを生産していきます。
引用文献
[1] 日本電波工業株式会社. ATカット水晶片及び水晶振動子. 特登06371733. 2018-07-20.
[2] 日本電波工業株式会社. ATカット水晶片及び水晶振動子. 特登06555779. 2019-07-19.