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2019.11.20
人工水晶

技術情報追加「人工水晶育成技術:フレームシード法による高品質化」

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1.人工水晶育成について
 人工水晶は、オートクレーブと呼ばれる巨大な圧力容器の中で作られます。図1にオートクレーブの模式図を示します。容器内の下半分を原料域,上半分を育成域といいます。原料域にラスカと呼ばれる天然水晶の粉砕片をいれ、中間に対流制御板を設置します。育成域には、人工水晶の薄い矩形板である種子結晶を入れます。最後にアルカリ溶液を約80 %充填し、蓋を閉めてヒーター加熱により育成温度及び圧力に昇温昇圧していきます(炉壁温度 約370 ℃,炉内圧力 約140 MPa)。昇温後は、原料域のみをヒーター加熱し、育成域で放熱する状態とします。これにより、原料域と育成域に温度差が得られ原料域でラスカを溶解し、飽和となった溶液が自然対流により育成域へ運ばれます。運ばれた溶液が育成域で冷却されることで過飽和状態となり、育成域にある種子結晶に析出することで成長します。これが、人工水晶育成の原理です。図2に成長前の種子結晶と成長後のアズグロウン人工水晶を示します。


図1.オートクレーブ模式図(内径650㎜φ×14m)

図2.育成前と育成後の水晶

図1.オートクレーブ模式図(内径650㎜φ×14m)

図2.育成前と育成後の水晶


2.人工水晶のエッチチャンネル/エッチピットとは
 エッチチャンネル/エッチピットとは、人工水晶をエッチングした際、転位(線状欠陥)に沿って空洞(チャンネル)や結晶表面にチャンネルを中心とした窪み(ピット)を生じる現象です(図3)。エッチチャンネルがATカット水晶の断面1 cm2中に平均何本含まれているかを示す指標(ρ)をエッチチャンネル密度といい、JIS規格にて等級が決められています(表1)。エッチチャンネル密度が高いと後工程の水晶ブランク加工時にエッチング工程で貫通孔(エッチチャンネル)が形成されたり、水晶ブランク表面にエッチピットが形成されたりする結果、振動特性に影響が及び問題となります。


図3.ATカット面のエッチチャンネル/エッチピット像

 表1.JIS規格によるエッチチャンネル密度の等級分け

図3.ATカット面のエッチチャンネル/
  エッチピット像

 表1.JIS規格によるエッチチャンネル密度の
   等級分け


3.エッチチャンネルを発生させる転位の種類とその方向
 エッチチャンネル/エッチピットを発生させる転位は、Z方向に変位した螺旋転位とXまたはY方向に変位した刃状転位に大別されます。そのうちエッチチャンネルとなるのは、ほとんどが螺旋転位です(図4, 5)。また、螺旋転位の大部分は種子結晶に内在する螺旋転位から継承し、Z方向の成長丘(コブル)の境界に沿って進展形成されることがわかっています。以上より、低エッチチャンネル密度の人工水晶を育成するためには、低転位密度の種子結晶を得ることが重要であることがわかります。


図4.結晶中の螺旋転位モデル

図4.結晶中の螺旋転位モデル



図5.エッチチャンネル像と螺旋転位像の一致

図5.エッチチャンネル像と螺旋転位像の一致


4.フレームシード法によるエッチチャンネル低減
 オリジナルの種子結晶は天然の大型水晶からセレクトして切出しますが、天然の大型水晶は希少性が高く、更には、そこから低転位密度である高品質な種子結晶を大量に取得する事はとても困難な事です。そのため、通常の生産に使用する種子結晶は、高品質なオリジナル種子結晶から育成した人工水晶を薄くスライスする事で複製します。しかし、種子結晶は複製を繰り返すうちに少しずつ転位密度が増加し、それに伴いエッチチャンネル密度も増加してしまいます。その解決策として成長方向が+X方向の領域(以下+X領域)から種子結晶を取得する手法があります。この領域の成長方向は、図5に示した螺旋転位の成長方向(Z方向)とは直交の関係になります。この為、+X領域では螺旋転位を取り込みにくく、転位密度が非常に小さい種子結晶用の人工水晶となり得ます。しかし、通常使用される「矩形」の種子結晶から育成した人工水晶の+X領域は、自然面の形成により種子結晶を取得できる領域が減少してしまいます(図6)。そこで、+X領域を効率的に育成取得できる方法として「フレーム形状」の種子結晶を用いた「フレームシード法(※1)」が知られています。
 図7にフレームシード法の概要について示します。まず、アズグロウン人工水晶(図7-A)を研削し、フレーム形状の水晶(図7-B)を作製します。その後、Z面に沿ってスライスを行い、フレームシード(図7-C)を得ます。フレームシード(図7-C)を育成し、+X領域が少し成長したフレームシード水晶(図7-D)を得ます。そして、フレーム水晶から再び種子結晶を作製し育成します。このサイクルを数回繰り返すことで、種子結晶のフレーム内部を+X領域で埋めていきます。このような手法によりフレーム内部の+X領域は、自然面を形成せず、種子結晶を取得できる領域を維持できます(図8)。また、本方法ではフレーム内部の寸法を設計することで、その寸法サイズに応じた低転位な種子結晶を比較的容易に製造する事が出来ます。

※1 フレームシード法は、三川氏らが1999年にIEEE- IFCSで報告した公知技術
  引用文献
  Y. Mikawa, M. Hatanaka, and Y. Banno, "New technique to decrease dislocations in synthetic quartz crystal,"
  Proc. 1999 Joint Meeting of EFTF-IEEE IFCS, pp. 773-776, 1999.

図6.「矩形」の種子結晶から育成したアズグロウン人工水晶モデル

図6.「矩形」の種子結晶から育成したアズグロウン人工水晶モデル



図7.フレームシード法の概要

図7.フレームシード法の概要



図8.「フレームシード」から育成したアズグロウン水晶モデル

図8.「フレームシード」から育成したアズグロウン水晶モデル


5.まとめ
 今回は、フレームシード法の内容について紹介させて頂きました。当社は、当技術のみならずその他の技術開発にも注力し、高品質の人工水晶を育成し、水晶製品の品質向上に貢献してまいります。





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