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技術情報追加「Twin-QCMアウトガスセンサの特長」
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1.はじめに
有機材料等から放出されるガスはアウトガスと呼ばれています。宇宙空間においては接着剤などの有機材料から放出されるアウトガスが人工衛星の光学機器や太陽電池等を汚染して、画像品質低下や発電量低下を引き起こし問題となっています。
図1.人工衛星のアウトガス汚染 |
図2.光学観測画像汚染の品質低下例
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* V. R. Haemmerle and J. H. Gerhard, "Cassini Camera Contamination Anomaly: Experiences and Lessons Learned," AIAA paper, AIAA-2006-5834 (2006). | |
そのため宇宙機に使用される有機材料は,低アウトガス材料を選定することが重要であり、アウトガスによる汚染の評価は,NASAをはじめ各国の宇宙開発機関で実施されております。また電気電子機器、産業機器、自動車部品などの民生産業分野においても、部品の小型化や高精度化によってアウトガスの影響が大きくなってきており、「接点不良」や「レンズの曇り」などの不具合を起こす等の問題から低アウトガス化の要望は高くなり、近年アウトガス計測の重要性が増しています。
2.QCM測定法について
水晶振動子は、その高いQ値によって高精度・高安定に周波数を制御・選択する電子部品の一つです。その特徴を生かしてQCMセンサとしても広く利用されています。QCMとはQuartz Crystal Microbalance(水晶振動子微小天秤)の略であり、水晶振動子の質量付加効果を利用して、微量分子の質量を計測する手法です。質量付加効果とは質量に対応した周波数低下が現れる現象であり、周波数の低下と質量の関係は、Sauerbreyの式で表すことができます。
3.QCMによるアウトガス計測手法
水は大気環境で0 ℃で固体から液体に、100 ℃で液体から気体に相転移します。しかし高真空環境では液体は存在せず、ドライアイスのように固体から気体に直接相転移(昇華)します。
図3.水の状態図
アウトガスも同様に真空環境下では固体から気体、気体から固体に直接相転移します。QTGA測定法(QCM Thermogravimetric analysis:QCM熱重量測定)は高真空環境下でQCMセンサの温度を変化させて物質の相変化によって付着や脱離を計測する手法となります。以下の様な手順で計測評価を行います。
図4.QTGA法の概念図と評価手順
4.Twinセンシング技術について
水晶振動子は振動や温度変化等の外来ノイズ影響を受けて周波数が変化します。そのため従来のセンシング技術では2枚の水晶振動子を用いて1枚を基準信号、もう1枚を検出信号としてその差分をとることで外来ノイズをキャンセルして付着や結合のセンシングを行っていました。(図5)
図5.ノイズキャンセル波形
この時2枚の水晶振動子の個体特性差が問題となり、高精度な差分計測を行うためにはクリスタルの組み合わせ(マッチング)が必要となっていました。
Twinセンシングは1枚の水晶片に二つの電極を形成し、二つの周波数信号を出力して差分計測を可能とした技術です。一つの水晶片に電極を二つ形成することで、水晶片の個体性能ばらつきや電極膜の形成ばらつきが抑えられ、個体特性差が少なくなり差分性能が大きく向上するのが特長です。これによりクリスタルマッチングも不要となります。
Twin-QCMセンサの温度特性を図8に示します。
水晶の周波数は800ppm以上変動しますが、Twin-QCMセンサで差分を取ることで±6ppm以内となり、温度変動による影響を1/60以下にキャンセルすることができます。
図8.Twin-QCMセンサの温度特性
(JAXAとの共同実験取得データ)
5.アウトガスセンサ特有の製品特長
アウトガスセンサ特有の要望に対応した主な製品特長について説明します。
(1)水晶センサ電極温度の正確な測定
水晶センサの電極に付着したアウトガスを脱離温度から成分同定するためには、電極の温度を極力正確に計測する必要があります。そのため水晶センサ上に温度センサを実装し、高精度な電極温度測定を実現しています。
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図9.Twin-QCM水晶センサ外観 |
図10.電極温度の計測誤差特性 |
(2)水晶センサを簡便に交換できる構造
アウトガス計測で汚染した水晶センサは消耗品となるため、簡便に交換できることが重要です。水晶センサを固定する基板はアウトガスが少ないセラミック基板を採用し、水晶センサがホールドされる構造としているため簡便に搭載可能です。またクリップで簡便に接続することができます。
図11.Twin-QCMセンサモジュール外観(左:カバー装着、右:カバー取外し)
(3)高感度測定と広いダイナミックレンジ測定
独自の発振回路技術で、基本波と3倍波の発振に対応しています。3倍波は周波数が高くなるため高感度な計測が可能となります。また基本波と組み合わせることで、高感度で広いダイナミックレンジで計測が可能となっております。
6.アウトガス測定例
シリコーン系接着剤に含有する低分子環状シロキサン成分D3(3量体)〜D9(9量体)を計測した結果を図12に示します。量体数が大きな環状シロキサンほど、高温で脱離しています。この脱離温度からシロキサン種類を同定し、放出レートから含有量の評価が可能となります。
図12.QTGAによるシロキサン脱離特性
(JAXAとの共同実験取得データ)
7.今後の展望
今後はこの技術を海外宇宙研究開発機関向けに展開すると共に、コンタミネーション抑制のためアウトガス計測を必要とする有機材料、半導体、建材メーカに向けて、真空チャンバも含めたトータルシステムを提案し、一般産業分野への展開を本格化する予定です。