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水晶製品の耐振動性能の改善について

2019年05月27日

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1.背景
 近年、基地局の設置場所の多様化、設備の小型化等の変化により、風や冷却ファン等の影響を受けやすい場所に水晶製品が搭載され、それらの振動による特性劣化が問題となるケースが増加する傾向にあります。
 また、スマートウオッチ等のウェアラブル機器、スマートフォン等の移動体機器においても、振動や衝撃によるGPS機能の性能劣化が問題となるケースが発生しております。
 さらに、データ容量の増加、通信の高速化に伴い多値変調化が進み、わずかな位相のずれによりデータエラーが発生するため、振動下での特性劣化が少ないデバイスの需要が増加しています。
 本稿では、特性劣化のメカニズムや装置に与える影響を解説するとともに、特性劣化を大幅に抑制したNDK独自構造の水晶発振器を紹介します。


2.振動による特性劣化のメカニズム
 一般的に水晶片は図1のように、導電性接着剤によって片側2点で保持されております。この構造上、特に製品高さ方向(Z方向)の振動が印加された場合、保持されていない側の水晶片がたわむことにより、周波数が変動します。


従来の水晶振動子構造 発振器振動方向

図1.従来の水晶振動子構造
 

図2.発振器振動方向
 

加振時のブランクのたわみ ブランクたわみと周波数変化量の関係

図3.加振時のブランクのたわみ

図4.ブランクたわみと周波数変化量の関係


3.水晶発振器の特性劣化とGPS受信特性劣化例
<発振器単体での特性劣化>
 発振器動作時に振動を加えた場合、静止時(図5)に比べ図6のように近傍のスペクトラムが大幅に劣化します。これは、位相雑音が劣化することを意味し、通信機器等においてデータ誤りが発生する等、通信品質に影響を及ぼす可能性があります。

静止時のスペクトラム 加振時のスペクトラム

図5.静止時のスペクトラム

図6.加振時のスペクトラム


<GPS受信特性評価>
 加振時における発振器の特性劣化がGPS受信特性に与える影響を評価しました。26MHzのTCXO(温度補償水晶発振器(以下TCXO))を基準信号源として使用し、図7のようなシステムを組みTCXO搭載ボードのみを加振させ、静止時と加振時のコンスタレーション(*1)の比較評価を行いました。
(*1)デジタル信号変調信号の信号点配置


GPS受信評価システム

図7.GPS受信評価システム


 TCXOを加振すると、静止時に比べコンスタレーションが大きく乱れる(位相が回転する)ことを確認しました。(図8、図9)
 GPS機器では、これらの劣化をソフトウェアで補正する誤り訂正技術が適用されていたり、筐体や防振ゴム等で対策されたりしている場合もありますが、その限界を超えた場合、GPS受信エラーが発生する可能性があります。

無加振時のコンスタレーション 加振時のコンスタレーション

図8.無加振時のコンスタレーション

図9.加振時のコンスタレーション


 また、近年普及している多値変調では従来の64QAM(*2)、256QAMから1024QAMが実用化段階にあるとともに、4096QAMといった超多値化の研究もおこなわれており、これらの通信においては、わずかな位相のずれがデータエラーにつながるため、振動による特性劣化は無視することができなくなってきております。1024QAMにおいて、位相誤差1度の時の固定劣化は、64QAMに対して5倍以上であるとの報告もされております。(図10、図11)

搬送波再生時の位相誤差 位相誤差に対する固定劣化

図10.搬送波再生時の位相誤差

図11.位相誤差に対する固定劣化

(*2) QAM:Quadrature Amplitude Modulation(直行振幅変調)


4.振動下での特性劣化改善
 前述の評価結果を踏まえて、当社では振動下において特性劣化が少ない発振器の開発を行いました。応力解析シミュレーションを用いた特性劣化のメカニズム解析結果より、外部からの振動による水晶片のひずみを抑制する独自構造を考案しました。その結果、従来品に対し特性の劣化を1/10程度に改善し耐振動性能に優れた低加速度感度水晶発振器(Low G-Sensitivity Crystal Oscillator、以下Low-G発振器)を開発しました。

 Low-G発振器の加振時のスペクトラムを図13に示しますが、従来品(図12)に対して大幅に劣化が抑制されていることが確認できます。

従来品の加振時スペクトラム Low-G発振器の加振時スペクトラム

図12.従来品の加振時スペクトラム

図13.Low-G発振器の加振時スペクトラム


 また、図7のシステムによるGPSの受信評価においても、コンスタレーションが乱れることがなく、大幅な改善を確認しました。(図14、図15)

従来品加振時 Low-G発振器加振時

図14.従来品加振時

図15.Low-G発振器加振時


 発振器単体での改善の度合いを定量的に示すために、加速度感度( /g)を算出しました。加速度感度は、式1、式2により、加振時に発生するスプリアスから求めることができます。図16のように、従来品と比較すると全加振周波数において約1/10の感度となっており、10倍の性能向上であることを確認しております

正弦波振動の加速度感度(G-Sensitivity)算出

従来品との加速度感度比較

図16.従来品との加速度感度比較


5.まとめ
 従来の水晶機器は、製品による差異はありますが、その構造により加振時に特性が劣化します。加振時の発振器特性劣化については、従来は特定の機器でのみ問題視されておりましたが、通信機器の設置場所、通信方式の変化等により、今後多くの通信機器において通信品質に影響を及ぼす可能性が懸念されます。
 当社独自構造の採用により、その劣化が大幅に改善され、GPSの評価システムにおいてもコンスタレーションの位相ずれが大幅に改善されることを確認しました。
 なお、当社では、耐振動性能の対策を施した2種類の小型製品(2016サイズ、3225サイズTCXO)をリリースしましたが、今後水晶振動子、SPXO(パッケージ水晶発振器)、VCXO(電圧制御発振器)のラインアップ拡充を図ってまいります



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