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技術情報追加「水晶オプティカルローパスフィルタにおける光学薄膜の改善」
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1.はじめに
日本電波工業株式会社における光学製品の主商品である水晶オプティカルローパスフィルタは、高画質が求められるデジタルカメラ等の映像機器に使用されています。水晶オプティカルローパスフィルタの主目的は、図1に示す通り、モアレ等の疑似信号の発生を抑えるためですが、それ以外の効果として色再現を向上させるために水晶オプティカルローパスフィルタの表面に赤外域の光を反射させるIR(InfraRed)カットコートや、光の反射を抑えるAR(Anti Reflection)コート等の光学薄膜を成膜しています。しかしながら、特殊な撮影条件下において、撮影を行った画像の中心部と外周部の色再現や明るさが異なる色ムラと言われる現象(写真1)や、強い光を撮影した時に光の周りに点状輝点が現れるゴースト現象(写真2)が生じる場合があります。これは、水晶オプティカルローパスフィルタに施されている光学薄膜が入射角で特性が変化してしまうことが原因の一つです。当社では、その現象を解決するための薄膜を開発しましたので、ご紹介いたします。
【図1】疑似信号除去の例
【写真1】色ムラの例:外周部が中止部に比べ暗くなっています。
【写真2】ゴーストの例:日光が赤や青のゴーストが発生しています。
2.水晶オプティカルローパスフィルタの構造
水晶オプティカルローパスフィルタは、水晶が1枚又は水晶やガラス等を複数枚組み合わせます。その表面には、赤外を反射するIRカットコート、反射を防止するARコートが施されています。(図2)
【図2】 水晶オプティカルローパスフィルタの構造
デジタルカメラの場合、この水晶オプティカルローパスフィルタが撮像素子前に設置されます。(図3)
【図3】デジタルカメラ内のオプティカルローパスフィルタ
3.IRカットコートの改善
(1)可視域におけるリップルの抑制
垂直入射では可視域(波長400~600㎚)で透過率の差がなく平坦であったのが、入射角30°にした時に透過率が凸凹となるリップルが発生します。その反射光がゴースト現象につながります。膜設計の最適化と工夫を行うことで30°入射でもリップル発生を抑制できる膜となっています。(図4)
【図4】リップルの抑制データ
(光を30°入射した時に10%程度の反射リップルが生じていたのが、改善コートで4%程度に抑制)
(2)波長ドリフトの抑制
IRカットコートの場合、入射角が垂直から角度が傾くと半値(50%透過率の波長)が短波長側に動きます。これを波長ドリフトと言います。膜設計の最適化と工夫を行うことで入射角を0°から30°のドリフト量を従来の約50%に抑制して色ムラの発生を抑制することが可能になります。(図5)
【図5】波長ドリフトの抑制データ
(光を30°入射し時に30㎚程短波長側にドリフトしていたのが、改善コートを最適化することにより約半分の15㎚程度のドリフトに抑制)
4.ARコートの改善
表面反射を抑制するARコートについても、垂直入射から角度を傾けると反射が増加します。膜設計の最適化と工夫を行うことで、入射角30°までの反射をほぼ抑えることでゴースト現象などを抑制することが可能となります。(図6)
【図6】改善ARコートの改善データ
(改善ARコートにより、入射角30°までの反射を抑制)
5.まとめ
今回ご紹介したIRカットコート、ARコートが、画質向上の一助になるべく、今後も新な特性を持った光学薄膜を開発していきます。