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技術情報追加「水晶を用いた物理(傾斜)センサの特徴」
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1.はじめに
力、圧力、トルク、粘度、温度、膜厚、加速度、傾斜、振動などを計測できるセンサを物理センサと呼び、多種多様な方式で対象物を計測しています。本稿では、水晶の特徴を活かした高感度傾斜センサを紹介します。
水晶は、三方晶系でモース硬度7とダイヤモンドやアルミナに次いで硬い物質です。一般的に、水晶と言うと硬く透明な結晶を連想しますが、図1の様に細長く薄板化すると荷重を加えても弾性変形が維持されます。水晶を高感度傾斜センサ(感度1x10-5°)として利用する場合、水晶片の撓みは10-12 m程度となり、微小な変化領域を使用します。
図1.水晶カンチレバーの撓む様子
2.センサの原理
水晶を用いた高感度傾斜センサは、図1に示した微細加工を施したカンチレバー構造で実現しています。このカンチレバーの端部に電極を形成し、対向する保持器側にも電極を形成します(図2)。カンチレバーと保持器の電極がコンデンサとなり、カンチレバーが傾斜や振動で撓むことで、電極間隔が変化し静電容量の変化が生じます。
図2. 容量変化の原理
センサ素子の容量変化を周波数の変化として得るためのセンサモジュール構成を図3に示します。基準の発振周波数となる水晶振動子、容量変化を得るための水晶センサ素子、発振回路の単純な構成です。容量変化を周波数変化として計測することで、計測桁数が多くなり微小な変化が計測できる高感度なセンサが実現できます。
図3. センサモジュール構成
容量変化と周波数変化の関係は、IEC 60122-1で定義されている式(1)を用いて導出できます。高感度なセンサを実現するためには、発振周波数fr、初期容量成分CL1、変化後の容量成分CL2を最適値にする必要があります。
fr : 発振周波数
Δf L1,L2 : 任意の負荷容量間の負荷時振周波数の差
CL1 : 初期容量成分
CL2:変化後の容量成分
C1,C0 : 水晶の等価回路定数
3.システム構成
傾斜や振動計測するためのセンサシステムを図4に示します。1000 Hzサンプリングを行い、計測PCでリアルタイムに結果をモニタできるシステムです。センサは最大3軸まで計測可能で、計測したデータは数値データとして保存し解析ができます。
図4. センサシステム構成
4.評価・特性
傾斜角を評価した結果を図5に示します。実際にセンサの角度を変化させ、その時の周波数変化量をプロットしました。角度傾斜と周波数変化量には高い相関があり、予め近似式を求めておくことによって、周波数変化量から角度換算が出来ます。
図5. 傾斜角度 対 周波数変化量の関係
【微小傾斜角度評価】
より微小な角度を評価する方法として、地球潮汐による地面の微小な角度変化(5x10-5°程度)の計測をしました。地球潮汐は、太陽や月の引力により周期的に海面が上下することが知られています(図6)。地球自身もゆっくりと周期的に変形しています。この変化は、地表では最大で数十 cmになり、角度は0.2 秒(5x10-5°)程度の変化となります。
図6. 地球潮汐による潮位変化 (出典:気象庁)
【検証結果】
傾斜センサを振動や温度変化がない場所へ設置し計測を行いました。得られたデータを解析し、図7に示すように同じ場所に設置している高感度傾斜計をリファレンスとした場合と同じグラフにプロットしました。この結果より、高感度傾斜計と同様の波形が得られ地球潮汐による1x10-5°程度の角度変化を捉えていることを確認しました。また、図8に傾斜角度と周波数変化量の関係を示します。潮汐の測定値は、実測からの推測値と近似しており微小な傾斜変化を捉えていることが確認できます。
図7. 地球潮汐による傾斜変化計測結果 |
図8. センサ感度特性 |
5.まとめ
水晶を微細加工し、容量変化を周波数変化としてセンサシステムを構成することで微小な角度1x10-5°程度の分解能を有する高感度センサシステムを実現する見通しを得ました。
今後は、防災やインフラモニタリング等など高感度なセンサが要求される市場を模索していきます。