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2020.05.25
ミリ波コンバータ

技術情報追加「ミリ波帯ダウンコンバータについて」

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1.はじめに
 近年、自動車の運転補助装置等、70~80GHz帯におけるミリ波帯の電波を利用する装置が実用化されてきています。ミリ波帯の電波は従来のマイクロ波帯までの周波数に比べ、直線性が高く大気や物体による減衰が大きい為、同じ周波数帯を使用する他の装置との干渉の影響が小さく、限定した範囲での使用に有効です。また、波長が短く機器の小型化、FMCWの変調幅を広帯域にすることによる高分解能化、雨や雪など天候の変化に左右されにくい等の優位性により、自動車の前方車間センサや衝突防止センサなどで実用化されてきており、今後ますます普及していくことが予想されています。(図1参照)

図1.76GHz帯ミリ波レーダー応用例


2. ミリ波帯ダウンコンバータ
 電波を利用する装置を開発・販売する際には、周波数、出力電力を測定し評価することが必要不可欠です。従来に比べ周波数の高いミリ波レーダーにおいても同様であり、周波数範囲の高い測定器を入手し測定に使用する、または手持ちの測定器で測定できる低い周波数に変換して測定する方法が考えられます。前者において80GHz程度まで測定できるものは現状高額な測定器となります。後者の場合、周波数を変換するためのミキサとローカル発振器が必要となり計測を行うためのシステムが煩雑になってしまいますが比較的安価に構成することができます。当社ではミリ波帯発振器やミリ波帯レーダーモジュールの研究を進める過程でこの測定系の課題に突き当たり、後者でのアプローチを選択しました。76GHz帯のレーダーモジュールを測定するにあたり、当時自社で所有していた10GHzまで測定可能なスペクトラムアナライザやオシロスコープで測定可能にする為、ミキサを購入、ミリ波帯発振器を自社で試作し組み合わせて10GHz以下の周波数に変換しスペクトル観測、FMCWレーダー解析を可能にしました。しかし、周波数の精度や信号電力の測定精度は必ずしも十分に満足できるものではありませんでした。実際に使用し周波数のドリフトや出力電力の周波数特性など改善すべき点が明確になり、可能な限り改良を加えレーダーモジュール等の測定に使用しました。
 そのような状況の中、社内外よりミリ波帯の周波数変換器(ダウンコンバータ)を製品化できないかとの相談や引合いを頂戴するようになり、自社での経験を踏まえ、使い勝手などを検討した上で開発をスタートさせました。次項よりダウンコンバータの概要について紹介いたします。(図2にダウンコンバータの外観を示します)

図2 ダウンコンバータ外観

図2 ダウンコンバータ外観


3.ダウンコンバータ基本構成図
 各機能部毎に個別のモジュール構成とし、それぞれ金属ケースを用いてモジュール間、外部への不要輻射、干渉を防止しております。(図3参照)

図3 ダウンコンバータ基本構成図

図3 ダウンコンバータ基本構成図


4.周波数変換部
 本装置の心臓部となる周波数変換部はミリ波帯信号を導波管-基板変換器により基板上の伝送線路に取り込み、ハーモニックミキサによって周波数変換しています。導波管-基板変換器については電磁界シミュレーションを実施し低損失になるよう設計しています。IF周波数は2~7GHzと比帯域が大きくなり広帯域であり、電気長の短縮化、インピーダンスの不整合に留意し小型な構造を意識した設計としています。またハーモニックミキサによる雑音指数の劣化を抑えるため、プリアンプを内蔵しております。(図4、図5参照)

図4 周波数変換部外観、図5 周波数変換部利得


5.IF周波数部
 IF周波数部は周波数特性の良いプリント基板材を用い、広帯域で振幅偏差の少ない特性となるよう配慮しました。装置全体の利得調整、温度補正機能を持ち、電子アッテネータをD/Aコンバータにて制御し生産時に装置規定利得に設定します。また各温度に応じた利得補正を行います。(図6に温度補正構成図を示します)

図6 温度補正構成図

図6 温度補正構成図


6.ローカル信号部
 ローカル信号部は高い周波数安定度を確保するためPLLシンセサイザを搭載、逓倍回路を用いてミキサのローカル信号まで周波数を上げる構成としています。逓倍段で発生する不要スプリアスに配慮し、各段毎にBPFを組み合わせることにより低スプリアス特性を実現しております。BPFは基板パタ-ン、金属ケース構造を合わせた電磁界シミュレーションと試作を重ね、性能を達成しております。(図7参照)

図7 ローカル部BPF特性例

図7 ローカル部BPF特性例


7.基準周波数同期部
 ローカル周波数は内蔵の高安定TCXOにより電源起動後数秒で安定し使用可能となります。また背面の10MHz基準周波数入力端子より外部基準信号を入力すると自動で切替を行い外部基準へ同期します。組み合わせて使用される測定器と同期を取ることが可能となり、精度の高い信号解析に有効です。また、下記の試験例のように複数のダウンコンバータを用い、複数の信号解析を同時に実行する際などにも有効となります。 (図8参照)

図8 FMCWレーダー4系統試験例

図8 FMCWレーダー4系統試験例


8.ダウンコンバータ特性
 下記にダウンコンバータ仕様を示します(表1参照)

表1 ダウンコンバータ仕様

表1 ダウンコンバータ仕様



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