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技術情報

オーディオ用超低位相雑音OCXO(DuCULoN®)の特長

2019年04月23日

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1.背景  DuCULoN®(デュカロン®)について
 ハイレゾ音源(*1)を正確に再現する為には、音の劣化の要因となるデジタル/アナログ変換器(DAC)によって処理されたハイレゾデータの精度を上げる必要があります。このDACの精度は、供給されるマスタークロック信号の特性に依存していると言われています。ハイレゾ音源の高解像度化が進むほど、マスタークロック信号源には低位相雑音特性をもつ発振器が求められます。
 当社では、超低位相雑音特性を有するハイレゾオーディオ用OCXOとしてDuCULoN®(Dual Crystal Ultra Low Noise OCXO)を製品化しています。ここでは、DuCULoN®の低位相雑音化技術についてご紹介いたします。

*1):High-Resolution Audio
アナログ信号をデジタル化するためには、一定の周波数でサンプリングという作業を行います。音をできるかぎり原音に忠実に再現するためには、サンプリング周波数やビットレートをあげることが必要です。現在のハイレゾ音源はCD音源に比べ、サンプリング周波数/ビットレートともに向上し、より原音に近い音でデジタル化が可能となりました。

2.DuCULoN®方式による低位相雑音化
 DuCULoN®の低ノイズ化設計においては、音質に最も効果があるとされる可聴帯域(20Hz~20kHz)での位相雑音特性改善を重点的に取り組んでいます。図1はDuCULoN®の簡易的な低位相雑音回路を示しており、Q値が高い水晶振動子を2個使用する低ノイズ回路設計としています。図1のAmp.1とX-tal 1で構成された発振ループより出力された信号を狭帯域フィルタ(X-tal 2)に通すことで、位相雑音特性を低減することが可能となります。

図1.DuCULoN<sup>®</sup>の低位相雑音化回路構成

図1.DuCULoN®の低位相雑音化回路構成


 図2は帯域が異なる3種類のフィルタの減衰特性を示しています。LCフィルタはもちろんのこと、一般的な小型Monolithic Crystal Filter(MCF)でも帯域が広すぎて可聴帯域でのフィルタ効果がほとんど期待できないことがわかります。そこでDuCULoN®は、図2の赤線で示された減衰特性をもつQ値が高い水晶振動子を狭帯域フィルタとして採用しました。これは、発振子として用いているものと同じ大型サイズの水晶振動子になります。

図2.一般的なフィルタの減衰特性

図2.一般的なフィルタの減衰特性

 図3はDuCULoN®の内部構造図を示しています。発振子とフィルタに用いているQ値の高い水晶振動子がOCXO内部の中央に配置されています。ここで、図1のX-tal 1を含む発振ループでの発振周波数とX-tal 2を含むフィルタの中心周波数を一致させなければ所望の低位相雑音特性を得ることができません。そこでDuCULoN®の内部では、2つのQ値の高い水晶振動子の配置場所や温度制御回路を工夫することで均一に水晶振動子をヒーティングすることによって、温度安定度を高めています。また、狭帯域フィルタを追加した場合の回路全体のインピーダンス最適化を行っています。

図3.DuCULoN<sup>®</sup>の内部構造図

図3.DuCULoN®の内部構造図


 図4はDuCULoN®と従来OCXOの違いをフィルタ特性より推定した位相雑音特性になります。オフセット周波数10Hz辺りから狭帯域フィルタの改善効果が表れて、オフセット周波数10kHzで10dB程度の改善がみられることが推定できます。そして、フロアノイズ領域では-175dBc/Hzを達成することが期待できます。
 このように、二つの水晶振動子を使用して可聴帯域での大幅な低ノイズ化改善が可能となることから、DuCULoN®(Dual Crystal Ultra Low Noise OCXO)と命名しています。

図4.DuCULoN<sup>®</sup>と従来OCXOの位相雑音特性の比較(推定値)

図4.DuCULoN®と従来OCXOの位相雑音特性の比較(推定値)

3.キャリア近傍ノイズとフロアノイズの関係
 図5は従来のOCXOにおける水晶発振子のドライブレベルを変化させた場合の位相雑音特性を示しています。色が濃くなるに従ってドライブレベルを大きくした場合の位相雑音特性結果となります。

図5.ドライブレベルと位相雑音特性の関係

図5.ドライブレベルと位相雑音特性の関係


 フロアノイズの改善策としては、一般的に水晶振動子のドライブレベルを増加させます。それによって信号レベルが増加することよりC/N(Carrier to noise ratio)が減少し、フロアノイズは改善されることになります。一方、ドライブレベルを増やすことにより水晶振動子の非線形効果による歪が増加して、水晶振動子のQ値が劣化します。その結果、キャリア近傍ノイズが劣化することになります。このように、キャリア近傍ノイズとフロアノイズはドライブレベルの大きさに関してトレードオフの関係にあることが知られています。図5のグラフからもトレードオフの関係性が確認できます。DuCULoN®はこのトレードオフの関係を使用せず、下記に示す別回路を搭載しています。

4.DuCULoN®回路の利点

図6.DuCULoN<sup>®</sup>の狭帯域フィルタの有無における位相雑音特性(実測値)

 図6は実際のDuCULoN®における狭帯域フィルタの有無による位相雑音特性の実測値を示しています。図4で推定した結果のとおり、可聴帯域で狭帯域フィルタの効果が表れていることがわかります。DuCULoN®(青線)のフロアノイズ領域のガタガタした形は、測定器の測定限界値に近くなっていることによるものです。また、図4との違いは、キャリア近傍ノイズもDuCULoN®の特性の方が優れていることです。フィルタ無しのOCXOは、キャリア近傍ノイズとフロアノイズのトレードオフの関係を考慮して設計しています。これに対して、DuCULoN®の発振ループ回路ではキャリア近傍ノイズを最優先する設計を行っています。すなわち、DuCULoN®はドライブレベルを大きくしなくても狭帯域フィルタの効果により極限までフロアノイズが改善されるので、発振ループ回路の設計はキャリア近傍ノイズが最適化されるようにドライブレベルを調整することができます。

5.今後の展望
 DuCULoN®の低位相雑音特性を説明するとき、常に低フロアノイズ特性が強調されます。しかし、これまでの議論を踏まえると、DuCULoN®はキャリア近傍ノイズとフロアノイズがバランス良く低ノイズ化されていることが大きな特長であることがわかります。
 今後は、DuCULoN®の低ノイズ化技術に加え、水晶振動子のQ値を最大限に引き出すことのできる発振回路構成を再検討することで、更なる低位相雑音化を実現させたいと考えています。そして、キャリア近傍ノイズ特性が重視される基準信号源としての10MHz低ノイズOCXOや100MHz高周波OCXOに対して検討していきます。



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