技術情報
発振回路構成を適正化する回路検討の重要性とその測定方法について
2019年07月29日
(*1)製品性能が維持できなくなったり、製品不良となってセット全体の動作不良となってしまったりする具体事例(設計、工程、工法、取扱いなど)と共に、製品不良となる理由を解説するシリーズです。
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水晶発振回路を回路検討する場合、【1】周波数、【2】負性抵抗、【3】ドライブレベル(励振レベル)(以下、ドライブレベル)の3項目について調査し、適正であることを検証することで、不発振や周波数ずれなどのトラブルを未然に防止できます。日本電波工業(以下、NDK)では、お客様の回路基板に水晶振動子を実装したうえで、水晶振動子とのマッチングを確認し、適切な条件を提案しています。これまで行った回路検討の結果、何らかの変更を提案したケースは7割を超え、必要に応じて、水晶振動子の仕様変更や使用するICの変更、回路定数の変更などを提案いたします。
以下に、上記3項目の測定方法について説明いたします。
【1】水晶発振回路の周波数測定を正しく実施する為には?
発振回路の発振周波数を測定する方法について説明します。
1-1.トラブルに陥りやすい周波数測定
簡便な方法として測定プローブを水晶振動子の端子に接続することが考えられますが、この方法では周波数測定値は、実際の値に対しマイナスとなり、正確に測ることができません。これは、一般的なプローブの入力容量が13pF前後あり、比較的入力容量の小さいFETプローブでも2pF程度ある為、水晶振動子の端子に接続することで負荷容量CLが変化する為です。
図1.発振回路
図1の発振回路の場合、負荷容量CLは式1のようになります。
図2.負荷容量特性
図2は負荷容量CL接続時に、水晶振動子単体周波数(Fo)からの周波数変化量を示した水晶振動子の事例で、CLが大きくなるほど周波数が低くなることを示したものです。FETプローブを接続しない場合の発振周波数測定値は+136ppmとなります。これに対し、FETプローブを接続した場合、2pF負荷容量が増加する為+115ppmと 21ppm低い測定値となり、正確に測定することができません。
1-2.アンテナを用いた非接触での周波数測定法
水晶発振回路を非接触で測定することで、正確に発振周波数を測定することができます。
図3.アンテナを用いた非接触での発振周波数測定法
図3はアンテナを水晶振動子に近づけ、非接触で発振回路の微弱信号を取得し、アンプで増幅し周波数カウンター等で測定した事例です。なお、アンテナは非接触状態で水晶振動子上にて周波数を取得しますので、出来るだけ近づけることが必要になります。また測定に用いるケーブルはPCBアースラインと接続してください。
図4.アンテナ
図4はNDKで使用しているアンテナの例で、測定に用いる同軸ケーブル先端を剥き、心線を被覆したものです。ループ状にすることで、信号を効率よく取得することができます。
1-3.発振回路の周波数調整
非接触での周波数測定ができるようになることで、図1(発振回路)のCin、Cout値を変化させ、発振周波数を目的の中心周波数に合わせるように調整し、発振周波数の精度を上げることができます。なお、NDKからの水晶振動子出荷時にはご指定の負荷容量で周波数を合わせ込んでおりますが、お客様側で測定時に大きな周波数差異が有る場合は、負荷容量が異なっている可能性がありますので、ご相談ください。
【2】水晶発振回路の負性抵抗を測定する為には?
水晶振動子で発生するトラブルの多くが、電源起動時に発振しない現象です(不発振)。不発振を未然に防止する為には、水晶振動子の外形寸法や周波数により異なりますが、発振回路に充分な負性抵抗が必要となります。ここでは、適正な負性抵抗の発振回路を設計いただく際重要となる、水晶振動子の起動特性と負性抵抗の測定方法について説明いたします。
2-1.水晶振動子の起動特性
水晶発振回路において電源を入れた場合、ホワイトノイズから水晶振動子の固有周波数が選択的に増幅され発振が開始されます。水晶振動子の不発振不具合のほとんどが起動時(発振開始時)に発生します。
図5.発振回路の等価回路
図5は発振回路の等価回路になります。発振回路起動時について分析を行いました。
起動時に安定した発振を得る為には、負性抵抗(-R)の絶対値である|-R|が水晶振動子の負荷時等価抵抗(RL)よりも充分大きい必要があります。
|-R|>RL ......(式2)
式2を満足することで、発振が成長して増幅し、その後定常状態となり図6のように安定した振幅となります。
図6.発振回路の起動特性
2-2.負性抵抗の傾向
周波数が低いほど、もしくは、水晶振動子が小型であるほど、必要とされる負性抵抗は大きくなる傾向になります。またICや周波数によっても負性抵抗は変わります。負性抵抗を過度に大きくすると、3倍波で発振したり自励発振したりするなどの不具合が発生することもあります。
2-3.負性抵抗の測定方法
水晶振動子に抵抗を接続し、不発振となる抵抗値を測定することで負性抵抗を測定できます。測定の際には、周波数測定同様にアンテナを用い水晶振動子に対し非接触とすることで、浮遊容量の影響を受けずに測定ができます。抵抗は最初に大きく設定し、不発振となった状態より抵抗値を徐々に小さくし、発振開始した時点での抵抗値を測定し、これを負性抵抗とします。これとは逆に、発振した状態から抵抗値を大きくして不発振となった抵抗値は実際の負性抵抗より大きい値となりますのでご注意ください。
図7.負性抵抗の測定方法
【3】水晶発振回路のドライブレベルを測定する為には?
水晶振動子のドライブレベルを測定する方法を説明します。
3-1.ドライブレベルの測定方法
電流プローブで水晶振動子に流れる電流Ip-p(mA)をオシロスコープで測定します(図8)。実効電流値Irmsを式3により算出します。ここから式4を用いドライブレベルを測定します。
Irms=Ip-p/(2√2) (mA) ...... (式3)
P=(Irms)2 × RL (μW) ...... (式4)
※RL=R1(1+Co/CL)2
式4にある水晶振動子の等価抵抗R1水晶振動子の並列容量Co及び負荷容量CLはお問合せ下さい。実測したドライブレベルが納入仕様書で規定された最大ドライブレベルより大きい場合は、図1の発振回路のRdを大きくし、水晶振動子に流れる電流を下げることで是正できます。
図8.ドライブレベル測定図
3-2.ドライブレベルが過度に高い場合のアクティビティディップの発生
水晶振動子に加わるドライブレベルが過度に高い場合、抑制されていたスプリアスが励起し、周波数温度特性にアクティビティディップが発生する場合があります。その為、ドライブレベルは納入仕様書等で規定した値以下でご使用ください。
図9.ドライブレベルが過多の場合のアクティビティディップの発生
【最後に】
水晶振動子をご使用いただくにあたり、事前に回路検討を行い、発振周波数/負性抵抗/ドライブレベルなどについて問題ない事を検証することで、お客様基板での発振回路の回路構成を適正化することができ、不具合発生をなくすことができます。NDKでは回路検討サービスを行っておりますので、ぜひご相談ください。