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発振回路評価方法

発振周波数の差(1)―概要―

(2020年11月改訂)

今回は、発振周波数の差について、概要をお伝えいたします。

1.基本

 発振周波数の差の基本は「測定対象の周波数と基準周波数の差(記号で表すと『dF』)」です。一般的には、どの程度のズレなのかをわかりやすくするために、『dF』を基準周波数で割ったもの(記号で表すと『dF/F』)のことを『発振周波数の差』と呼んでおります。一般式で表すと以下の①式になります。

発振周波数の差

 上記①式の概念は水晶振動子の仕様書にも用いられております。水晶振動子の仕様書に記載されている周波数許容偏差は、以下の②式で計算されております。

周波数許容偏差の式

 ある水晶振動子において想定されている最低周波数と最高周波数を計算したい場合、上記②式を変形した下記③式のdF/Fに周波数許容偏差の最低値と最高値を代入すれば、それが求められます。

式

 例えばある水晶振動子の仕様書に
公称周波数:20.000MHz
周波数許容偏差:±50ppm以内
負荷容量:8pF
 という内容の記載がされている場合、その水晶振動子の最低周波数と最高周波数は
最低周波数:負荷容量=8pFにおいて、20.000MHz × (1-50×10-6)=19.999000MHz
最高周波数:負荷容量=8pFにおいて、20.000MHz × (1+50×10-6)=20.001000MHz
 と導出されます。

(参考:1ppm=1×10-6

2.回路検討における発振周波数の差

回路検討において測定対象の周波数は、測定対象回路における回路上周波数です。

 基準周波数には一般的に公称周波数が用いられますが、回路検討においては基準周波数に公称周波数を用いません。

 その理由は「水晶振動子には周波数許容偏差があるから」です。以下、具体例をもとに説明いたします。

 『1.基本』に記載した公称周波数=20.000MHzの水晶振動子の最低周波数スペック品をA水晶、最高周波数スペック品をB水晶とします。すなわち、
 A水晶の発振周波数は負荷容量=8pFにおいて、19.999000MHz
 B水晶の発振周波数は負荷容量=8pFにおいて、20.001000MHz
 です。
 A水晶をある回路に実装した場合の回路上周波数が19.999100MHzだったとします。
 全く同じ回路にB水晶を実装した場合、回路上周波数はA水晶実装時とは異なる周波数となります。簡単な計算上、20.001100MHzで発振します。

 B水晶が上記計算通り20.001100MHzで発振したとします。「基準周波数は公称周波数」という考えのまま上記ケースの発振周波数の差を計算すると
A水晶使用時

A水晶使用時の式

B水晶使用時

B水晶使用時の式

と導出されてしまいます。つまり全く同じ回路について評価しているにも関わらず、導出される値が大きく違ってしまいます。
この相違を無くすため、回路検討においては発振周波数の差を以下の④式で導出することにしております。

発振周波数の差の式

F nom :実験用水晶振動子の公称周波数
F CL※2 :実験用水晶振動子(多くの場合、基板実装水晶振動子)のある負荷容量(基本的に、
 実験用水晶振動子の仕様書上で指定されている負荷容量)における周波数
F circuit※2 :測定対象回路に実験用水晶振動子を実装した際の回路上周波数

※1:F nomとF CLの差はどんなに大きくても数百ppm程度なので、式中の≒が成り立ちます。
※2:本稿の便宜のためにつけた記号であり、一般的なものではありません。

「新しく導入されたF CLが回路検討における発振周波数の差の基準周波数」ということです。
先ほどの例に対して④式を適用すると

A水晶使用時

A水晶使用時

B水晶使用時

B水晶使用時

と同じ値が導出されます。

簡単にまとめると
「回路検討における発振周波数の差に④式を用いるのは、各水晶振動子に必ず存在する公称周波数からの発振周波数偏差の影響を除くため」
ということになります。

その影響を考慮した場合どのように考えられるか、以下に示します。

3.水晶振動子の周波数許容偏差を考慮した場合

 水晶振動子の製品間の周波数バラつき、すなわち常温(+25°C)における周波数許容偏差を考慮に入れた場合に発振周波数の精度(基準周波数は公称周波数)がどうなるかを知りたい場合、④式で得られた値に水晶振動子単体の周波数許容偏差を加えれば、その値が導出されます。すなわち以下の⑤式になります。

 発振周波数の精度=④式によるdF/F+水晶振動子単体の周波数許容偏差・・・⑤

  以下に例を示します。

・④式によるdF/F:+10ppm
・水晶振動子単体の周波数許容偏差:±30ppm以内(+25°Cにおいて)

以上の条件の場合、
発振周波数の精度=+10ppm±30 ppm = -20ppm~+40ppm
となります。

4.水晶振動子の周波数許容偏差及び周波数温度特性を考慮した場合

 製品間の周波数バつき及び温度の変動を考慮した場合に発振周波数の精度(基準周波数は公称周波数)がどうなるかを知りたい場合、⑤式で得られた値に水晶振動子単体の周波数温度特性を加えれば、その値が導出されます。すなわち以下の⑥式になります。

発振周波数の精度=⑤式による発振周波数の精度+水晶振動子単体の周波数温度特性・・・⑥

以下に例を示します。

・④式によるdF/F:-10ppm
・水晶振動子単体の周波数許容偏差:±40ppm以内(+25°Cにおいて)
・水晶振動子単体の周波数温度特性:±50ppm以内(動作保証温度範囲内において)

以上の条件の場合、
発振周波数の精度=-10ppm±40ppm±50ppm = -100ppm~+80ppm
となります。

5.水晶振動子の負荷容量仕様を変更する場合について

 回路検討報告書において、水晶振動子の負荷容量仕様を変更する提案をする場合があります。その場合、どのように発振周波数の差を導出しているかを述べます。

 基本は『2.回路検討における発振周波数の差』で述べたことと変わりません。違いは「F CLをどの負荷容量で測定した値にするか」だけです。

 一例を示します。

実験用水晶振動子の公称周波数=10.000MHz(仕様書上で指定されている負荷容量:8pF)
F (CL=8pF)=10.000028MHz
F (CL=6pF)=10.000388MHz
F circuit=10.000400MHz

F (CL=8pF)※3:負荷容量=8pFで測定したF CL
F (CL=6pF)※3:負荷容量=6pFで測定したF CL
F circuit※3:測定対象回路に実験用水晶振動子を実装した際の回路上周波数

※3:本稿の便宜のためにつけた記号であり、一般的なものではありません。

 上記の場合、発振周波数の差は以下のように導出されます。

(A):基準周波数がF (CL=8pF)の場合:

基準周波数がF (CL=8pF)の場合の式

(B):基準周波数がF (CL=6pF)の場合:

基準周波数がF( CL=6pF)の場合:の式

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