技術情報

水晶発振器の差動出力について

2018年10月24日

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1.背景
 近年、画像データ伝送に代表されるようにセンサー・データの高速伝送が求められていますが、高速伝送系には、一般に"差動伝送"が用いられています。高速化に伴い、データ伝送の基準クロック源となる水晶発振器においても差動出力水晶発振器(以下、差動出力発振器)の需要が高まっています。このような背景から、差動信号について改めて議論したいと思います。

2.クロックレートと信号レベル
 一般には水晶発振器と言うと単相出力が知られており、クリップドサイン波やCMOS波(矩形波)出力が代表的です。
 クリップドサイン波出力は、矩形波をなまらせたような波形であり、不要高調波が抑制されることからRF回路に良く使用されています。クリップドサイン波出力の製品としてはTCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)が知られています。
 CMOS波出力は、デジタル信号処理に用いられる論理レベルに対応する信号出力であることからデジタル信号の受け渡しに良好であり、CPUなどのクロックとして使用されています。
 下記に、エッジレートが電圧によらず一定(V/sec一定)のプロセスで作製されたと仮定した時のクロックレートと信号レベルの例を記します(図1)。

クロックレートと信号レベルの関係(エッジレート一定)

 図1のようにクロックレートを高くすると振幅が減少します。高いクロックレートに対応するためには信号の小振幅化が重要です。下記にCMOS出力波形と小振幅対応の出力波形、および仕様を記します(図2)。

クロック波形と仕様

3.差動出力波の特徴
 小振幅波形は、ノイズの影響を受け易くなります。例えば、+3.3VのCMOS波形(閾値+1.65Vで判定)に+1Vのノイズがあっても信号の誤認識は起こりませんが、+1.8VのCMOS波形(閾値+0.9Vで判定)に+1VのGNDノイズがあると閾値を超え信号が反転し誤認識が発生してしまいます。

ノイズの影響(単出力)

 この小振幅波形での誤認識を防ぐ手段としては、差動信号が有効です。差動信号は、1つの発振器からそれぞれ位相が反転した逆相の波形が出力されることが特徴です。等振幅で逆相の信号を1対で伝送しその差分を取るため、外来ノイズやGNDの影響を受け難くなります。
 下記に差動出力発振器が、GNDノイズの影響を受けても、出力の終端時に打ち消されて、ノイズの無い信号として受け取る事ができる様子と、単出力発振器がノイズの影響を受ける様子をイメージとして記します(図4)。

ノイズの影響(差動出力)

 このように、差動出力とすることでノイズの影響を防止することができます。

4.差動信号の利点と注意点

 差動信号の利点は、終端して使用される時、波形にリンギングが発生しないという特徴があります。対して単出力信号は終端されないので、リンギングが発生し易く、高調波が大きく観測されEMIなどに不利となることがあります。
 差動信号の注意点としては、それぞれの信号波形の対称性が重要です。一方の波形に遅れ(SKEW)があったり、波形の非対象性があるとEMIなど信号品質に影響するコモンモードノイズが発生します(図5)。

コモンモードノイズ

5.差動出力発振器の利点
 単出力の水晶発振器を用いて、その単出力信号を、システムIC側で受け波形変換により差動信号(波形)を生成することは可能ですが、波形間に遅延(SKEW)の発生しない回路は設計が難しいため、専用に設計された差動出力発振器を使用することで波形間に遅延(SKEW)の無い信号が得られ、システムの誤動作リスクを低減できます。また、高速化されたDDR3メモリなどでは、クロックの立上りエッジと立下りエッジ時にデータを伝送するDDR(Double Data Rate)方式が使用されますが、システムIC側で、立下りエッジの波形を取得するのは難しく、この分野においても差動出力発振器の出力信号のそれぞれの立上りエッジを使用する事で、DDR機能を可能とすることが出来ます。

NDKでは、これら波形の品質を追求した差動出力発振器をお客様の用途に合わせてラインナップし、今後も拡充してまいります。



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