宇宙機器に使用される材料や部品は、ミッション成功を支えるためにも、その品質に高い信頼性が求められます。特に、真空環境における分子汚染は光学機器や観測センサの性能に影響を与える「見えない問題」として、採用材料の選定段階から確認が必要です。そこで標準化されている評価手法が、ASTM
(American Society for Testing and Materials)
による試験です。
ASTMは米国の民間標準化団体で、宇宙材料に限らずあらゆる産業分野で利用される国際的な規格を策定しており、NASAやJAXAなどの宇宙関連機関でも材料評価において推奨されています。
宇宙材料に関連する主な試験規格には、以下の3つがあります。それぞれ用途・目的・測定方式が異なり、必要に応じて段階的に用いられます。
【ASTM E595/E1559/E2900 比較表】
| 試験規格 | 主な目的 | 適用材料・用途 | 試験方法 | 試験条件 | 適用規格 | 欧州該当適用規格 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ASTM E595 | 材料の基本適性評価(アウトガス量測定) | 宇宙機の構造材、断熱材、電子部品、接着剤、フィルムなど |
【高精度天秤】 TML/CVCM(*1)を天秤と冷却プレートで測定 TML/CVCMの挙動を補完的に把握する手段としてQCMが有効 |
125°C / 25°C冷却 / 真空10⁻³~10⁻⁵ Torr / 24時間 |
NASA-STD-6016 / JERG-2-144-HB | ECSS-Q-ST-70-02C |
| ASTM E1559 | 時間・温度変化によるアウトガスの詳細解析 | 光学系、高精度電子機器、精密機器など幅広い用途 | 【QCM】アウトガスと凝縮量をリアルタイム分析 | +25~+125°C / -183~+25°C冷却 / 真空 / 24~48時間 | NASA-STD-6016 | ECSS-Q-ST-70-06C |
| ASTM E2900 | 材料の長期運用適性評価(脱ガス完了の確認) | 長期間使用する探査機・通信衛星・宇宙ステーションの部材 | 【QCM】残存アウトガス量を測定し脱ガス完了を評価 | +125°C / -50~+50°C冷却 / 真空10⁻⁶~10⁻⁸ Torr / 数百時間 | NASA-STD-6016 | ECSS-Q-ST-70-05C |
(*1):TML(Total Mass Loss)=質量減少量
CVCM(Collected Volatile Condensable Material)=凝着成分
材料メーカーとしては、まずE595をクリアすることが重要です。ただし、宇宙機器に実際に搭載される段階では、E1559やE2900といった長期挙動や脱ガス完了の確認が求められるケースが増えてきます。NDKのQCMは、こうした「次のフェーズ」に備えるための試験ASTM E1559およびE2900に対応しています。
温度変化や時間経過に伴うガス放出量をリアルタイムで連続モニタリング。
詳細は、以下IEEEでの発表資料をご参照ください。
| タイトル・テーマ | Twin-CQCM and Twin-TQCM Sensors With Wide Operating Temperature Range for Outgassing and Atomic Oxygen Measurement |
|---|---|
| 論文掲載誌/発表先 | IEEE Sensors Journal, vol. 21, no. 9, pp. 10530-10538, 2021. |
| 論文執筆者 | 土屋佑太(JAXA), 茎田啓行(NDK), 塩原毅(JAXA), 行松和輝(JAXA), 宮崎英治(JAXA) |
48h~数百時間にわたる長時間試験を通じ、脱ガス完了状態を確認。
以下は、真空中でOリングを加熱し、脱ガスの収束状態を評価した長時間試験の例です。
QCMを用いることで、脱ガス挙動を連続的にモニタリングでき、最終的な安定状態への推移を可視化できます。
【 Oリングアウトガス付着特性 】
測定条件:Oリング3種(FKM/VMQ/NBR)
温度条件:130℃定温保持
測定時間:最大4時間(※E2900本来は数百時間に及ぶ)
※掲載グラフはE2900試験の一部条件を模擬した例であり、正式なE2900試験はさらに長時間の評価が行われます。
アウトガス試験の初期段階では、ASTM
E595が材料選定の「最初のハードル」としてよく使われます。
この試験では、高精度天秤を用いたTMLおよびCVCMの定量評価が行われます。
ASTM
E595で求められるTML/CVCMの挙動を補完的に把握する手段としてQCMが有効です。
※E595において正式な提出値が必要な場合(例:NASAやESAの指定要件等)は、認定試験機関での実施が必要です。